或る日、僕らは。
あれから、1年が過ぎた。
長女は小学二年生になり、僕は小学二年生の父親になった。
購入した直後の乱暴な光沢を失った赤いランドセルは、ようやく柔らかい風情を描きながら、彼女の背中の上で居心地の良さそうな表情を見せるようになり、日々、訪れる朝の慌しい喧騒も、玄関を飛び出していく彼女の力強い後ろ姿も、今では極めて日常的な景色となって、僕らの関係軸のうえを穏やかに流れている。
そして今日、不安や迷いでいっぱいになった胸のうちを咀嚼しきれず、入学式をボイコットしてしまった彼女のボレロやブラウスは、1年が過ぎた今、ようやくハンガーからはずされ、新たに一年生となる彼女の妹によって、その格調を写実的なものに変えた。
4月9日。
そんなわけで、わずかに残る桜の下を、雨上がりの埃臭いアスファルトの上を、窮屈な感傷を引きずりながら入学式の会場へと向かう僕は、小学二年生と新一年生の父親になった。
いまだ、スーツもネクタイも似合わない僕は、彼女達の中を優雅に流れる時流の速度に取り残されぬよう、ただ、ただ、歩を進めるよりほかない。